ほの暗い一室に、セミダブルの大きなベッド。
その上で真紅のタオルケットがもぞもぞと動く。
名前はぼけっとしながら起き上がり、辺りを見渡す。見慣れぬ風景に戸惑いながら、小さくため息をつきベッドサイドに座る。
テーブルの上に置いていた林檎が無くなっている。
大きく開け放たれた扉の向こうに、ソファーで気持ちよく眠るアイオリアを視界に入れる。
気だるさが抜けきらぬまま起き上がり、たどたどしい足取りでアイオリアの元へ歩を進める。
瑞々しい香りがする。
自身の髪を撫でながらアイオリアをじっと見つめる。
殆どまともに見ていなかったその顔は端正なものだ。
整った目元、鼻、唇。やや丸みのある輪郭に、いかにも健康的な筋肉質な体。
そこからソファーのやや上に位置する窓から漏れる月明かりは、彼の魅力を引き立てている。
しかし煩い鼾が全てを台無しにしていた。
名前がその場を後にしようと踵を返す最中、背後で衣擦れが聞こえる。
「起きていたのか」
問うアイオリアに向き直ると、彼は重そうな目蓋をごしごしと擦っていた。大きく伸びをするとぱきぱきと間接の鳴る音が響く。
名前が起こしてしまった非を詫びると、アイオリアはすかさず否定する。
「起き上がって辛くはないか?まだふらついてるようだが」
「眠ったら少し楽になりました」
「そうか……回復するまではここに居るといい。聖域の外は治安がよくないからな」
名前は純朴そうなアイオリアの好意に、言葉に詰まる。
「何かしら訳があるならいつでも相談してくれ。君がいた部屋は自由に使ってくれていい。俺は何かと不在がちでいない日の方が多いからな。そう不便はないだろう」
「でも、ソファーでごろ寝じゃ風邪ひいちゃいます」
「俺はそんなヤワじゃない。何せ日ごろから鍛えているからな!」
素直でどこか頼り甲斐を感じさせる物言いに、名前は気が抜けたようにその場に座り込む。
アイオリアはまた倒れそうなのかと心配して駆け寄る。
凄く心地いい人だ、と名前はアイオリアを静止しながら、冷えた心が温まっていくのを感じていた。