ボンゴレ直属のヴァリアーのボスであるザンザスに楯突くファミリーを殲滅するために、レヴィが赴いた地は南イタリアに有った。
右を向いても左を向いても、人、人、人の残骸と、崩れた煉瓦の≪建物だった≫もの。
遠くから銃声が響く。
ここで長く生きていられる人間自体、存在するのかと疑問すら浮かぶ。
隊服の内側にあるジッパー付きのポケットから、書類・・・というには薄すぎる紙を取り出す。
申し訳程度に書かれた地図には、間違いなく今現在レヴィが立っている場所にアジトが在るはずだが、建物は跡形もなく崩れている。
「こちらミント。ボルター、状況は」
機械のように抑制の無い声が無線越しに伝わる。
今回の司令官はミントと言う女。
再び周囲に視線を巡らせるが、見るものが極端に少ない。
建物らしい建物一つありやしない。
「アジトは既に消失している」
「どうやら地図を書き直す必要がありそうね。衛星から映像をハッキングしているわ。ちょっと待ってくれるかしら」
呑気に言っている場合か。と、心の中で悪態をつく。
戦力確認のために歩を進めていく。
骨と皮の様な"人"が、レヴィを見て表情が畏れと嫌悪感に染まる。
壁が崩れ、瓦礫となった場所には夥しい死体が転がる墓場となっていた。
再び無線がガリガリとノイズを立てる。
「ボルター、現在位置から右35度に方向転換、太陽の方角に進んで。
ターゲットは目と鼻の先よ。目印は崩れた壁と・・・うっぷなにこれ・・・・・・もしかしたら、死んでいる可能性があるわ」
今まさにいる場所か。
レヴィは「了解」とだけ言葉を発し、五感を研ぎ澄ましつつ周囲を見渡す。
死体の山に、ただ一人だけ動く物体があった。
パラボラを出すために、警戒しつつ動く物体との距離を縮めていく。
死体の山から、一人の女が飛び出した。
息苦しそうに胸を押さえ、ティールグレーの瞳は涙で潤んでいる。
「・・・っはー!おんもいっ!」
眉を顰める女の手には、赤錆に塗れたナイフが握られていた。
女が来ている白基調のブラウスは茶褐色に沁みついており、所々擦り切れた黒のショートパンツから見える太股には深い傷ができている。
パタパタと服のゴミを払い、腰に装着しているベルトのポーチから煙草を取り出し、口に含む。
ジッポライターの火を付け、息を吸い込んだ。
女とぱちりと視線が合うと、怪訝に瞳を揺らす。
「どなた?」
ティールグレーの瞳は美しく輝いている。女は物怖じせずにレヴィに近付いて行く。
右腕の紋章を見て、至極残念そうに煙草の煙を吐き出した。
諦めを含んだ笑いと共に、鋭い眼光がレヴィの思考に訴えかける。
「お前の名は?」
レヴィが態勢を低く保ったまま呟くと、女は卑屈な表情に変わる。
「苗字名前。私のファミリーは壊滅してる。好きに処分していいよ。」
ターゲットは事実上消失と言えるのだろうか。
残党も残らず消さなければならない。レヴィは銃を構える。相手に戦意が無い以上、無駄に自慢の武器を出すのは気が引ける。
安全装置を静かに外すのを、名前と名乗った女はひたすら見つめながら煙草の煙を吸いこむ。
銃口を名前の頭に付きつけてトリガーに指を這わせる。
「ごめん。やっぱりまだ死にたくない。」
「今更命乞いか」
名前の瞳に凛とした決意が滲み始める。死にたくないと恐怖する眼差しではなく力強く目標を見据えるように。
ほんの数分の間で初めてみる表情にレヴィは心のどこかで惹かれるものを感じた。
周囲に殺気を感じて互いに身を翻した。
名前は赤錆びたナイフを深く構えると同時に走りだし、四方から銃声が木霊する。
銃弾の軌道から敵の居所が容易に判断できた。前転して敵の銃弾を交わしながら、敵の一人とみられる男の懐に入り込み喉笛を引き切る。
競り負けてはいられない。パラボラで四方の攻撃手を消していく。銃声がやみ、再び戻った静寂。
返り血を浴びた名前がレヴィに背を向けて立ちつくしていた。
「綺麗に掃除させて。それまで待ってて。すぐ終わる。」
答えを待つでもなく、言い終えるや否や名前は瓦礫の合間から近くにある崩れかけの廃墟に手榴弾を投げ込む。爆発音と共に激しい閃光に視界が奪われる。手榴弾の正体はスタングレネードだったか。
余程の死にたがり屋なのか、無鉄砲とも言える手口にレヴィは小さくため息を溢す。
気が乗らないなどと思いながら、名前が向かった方向に視線を移す。
男共の悲鳴が聞こえたのちにフラフラとよろめきながら名前が現れる。
再びレヴィの元に辿り着き、にっと笑う。
「エグイ顔して紳士だね。本当に待っててくれるなんて。惚れたよ。」
「むざむざ殺されに戻って来る貴様が酔狂だ」
「心残りはない。」
ティールグレーの瞳は迷うことなくレヴィを射抜くようにまっすぐと見据える。
レヴィは名前の腕を乱暴に掴み、引き寄せた。
名前は不思議そうにレヴィを見上げる。
「着いてこい」
「殺さないの?」
「心残りはないのだろう。お前が嫌ならすぐに殺してやる」
「それ、約束ね。」
名前は手にしていた赤錆びたナイフを路上に捨て、レヴィに促されるまま自家用ジェットに乗り込む。
パイロットが困惑していたが、意見するなと一括してやり過ごす。
恐怖に戦くだとかひるむ様子を見せずに、名前は流れていく風景を眺めていた。
アジトに着いてからは当然の様に非難を浴びたが、好きにしろと一言発しただけだった。
ボスを前にして如何様に扱われる覚悟をしていると言い放った。気丈な女だ。
名前を自室に連行する。
扉を開けてすぐ、名前は素っ頓狂な声を上げた。
「え・・・これ全部目覚まし時計?!」
「そうだが」
驚かれるのも慣れていた。
それもその筈、レヴィの部屋に入る隊員は一様に目覚ましに突っ込むからだ。
名前にしてみれば奇妙なのだろうが、レヴィは構わずバスルーム、トイレ、寝室の位置を教える。
食事は女中が1日3回リビングに運びに来る。嫌いな食べ物があればその時に伝えればメニューを変更できると豆知識もしっかり伝授する。
この部屋からは出ないようにと伝える。名前は拒否するでもなく、首を傾げた。
「拘束しないの?ほら、手錠とか。」
「必要ない」
「自害しちゃうかもよ?」
「・・・・・・お前が嫌ならすぐにでも殺してやるが」
敵対ファミリーの奇襲を防止するため窓は一切ない。
鍵は外からでもかけられる。逃がすくらいなら、殺すまで。
名前は顔を真っ赤にして笑いをこらえている。
「真面目なんだ。」
かと思えば、レヴィの腰に腕をまわして抱きつく。
まるで掴みどころが無い、奇妙な女だとレヴィは名前をまじまじと見つめ、額にキスをした。
名前は途端に頬を赤く染めた。
自重しないあとがき
レヴィ夢第2段。恋なのかわからなくて戸惑うレヴィたんをイメージしながら書いていたんですが・・・。
変態なのに硬派すぎてアグレッシブに行けないレヴィに「あれ、これ何小説だっけ?」な心境に陥りました。