服に付着したべっとりとした赤がじわりと滲む。
髪の毛が首もとに張り付くのを気にせずに、堅く凍った土を蹴るように走る。
体はすっかり氷のように冷たくなり、感覚を奪われていく。
雪が向かい風に乗って顔にたたきつけられる。
任務を終えたレヴィはこわばる体を奮い立たせ、森の奥深くにあるロッジを目指す。
視界が悪くなる一方、木々の合間から仄かな灯りが見えた。
蜃気楼のようにぼんやりとした灯りは徐々にこちらに向かっており、間近になってようやく何者か理解できた。
レヴィと同じ、右腕にボンゴレの紋章がついたツートンカラーの隊服。
フードを深くかぶり、長く外の見回りでもしていたのか、雪が積もっていた。
「レヴィ様。」
穏やかな口調の女は、レヴィの元へ小走りで駆けよる。途中に躓いてしまい、ランタンが明後日の方向に吹き飛ぶ。
レヴィはランタンを拾い、名前を起き上がらせると彼女はよろめきながらも大きな体に抱きついた。
頭一つ分は小さな背。しなやかな濡れ鴉色の髪がフードから垣間見える。
紛れもなくレヴィが心待ちにしていた人物、恋人の名前だ。
名前は恐る恐る顔を見上げる。互いの目が合うと、直ぐに逸らされた。
代わりに隊服の裾をきゅっと握り、レヴィに続いて歩き出す。
小走りになって離れまいとする名前を見て、顔が綻ぶ。
「道は覚えているか」
こくん、と頷く名前の頭をぽんと叩く。
名前は口下手であまり喋らない代わりに、行く先を開いた指で指し示す。
目的のロッジは合流地点からさほど離れていない場所だったが、吹雪で視界が悪い中だ。名前が居なければ多少無駄に彷徨っていただろう。
ロッジに着くなり体に降り積もった雪をさっと払う。名前はブーツが痛まぬようにとタオルで入念に手入れしている。
手の行き届いたロッジはエアコンで程よく暖まっている。
着替えのためにバスルームに移動すると、事前に用意していたプライベートウェアが脱衣所の籠に収まっていたため、着替える。
革製の重たい隊服を据付のハンガーにかける。
リビングに戻ると名前が二人掛けのソファーの端に座っていた。
いつの間にか着替えていたのだろうか、パイル地の上着にハーフパンツ姿で、可愛らしい。
相変わらず手入れに夢中になっていて、隊服をタオルで入念に拭いている。
レヴィはソファーの空いた場所に腰を下ろし、その姿を眺めていた。
しなやかな濡れ鴉色の髪にそっと触れ、多幸感が指先からじわじわと侵蝕する。
優しく頭を人なですると名前はピクリと跳ねた。手入れに夢中のあまりに気が付かなかったらしい。
「あ、飲み物・・・お持ちします。」
静かに席を立ち、据付のカップにインスタントコーヒーをセットし、電子ケトルの湯を注ぐ。
インスタントとはいえドリップ式、たまるまでには時間がかかる。
名前の腕を引っ張り、ソファーの上に座らせてから抱き寄せる。
無表情だが僅かに頬が赤く俯いている。
「・・・ずるいです。レヴィ様。」
名前は消え入りそうな声でレヴィのTシャツの袖をきゅっと握る。
それだけの行動にいてもたってもいられない衝動に駆られる。
レヴィは名前の頭にコツンと額を寄せると、彼女の顔は益々紅がさす。
シャンプーのフルーティーな香りが鼻腔をくすぐる。
名前は何かが違うと言わんばかりに頭を振り、レヴィを上目遣いで見つめる。
Tシャツの袖がくい、と引っ張られる。
「違ったか」
レヴィは優しくキスを落とす。
顎に、頬に、額に。冷え切った唇から名前の暖かい体温を感じる。
名前はレヴィの首筋に顔を埋めて腰に手を回した。
宥めるように片手は背中に手を添え、片手で頭をなでる。
何度も撫でるうちに、名前は心地良さそうにピットリ張り付く。
ポチャン、とコーヒーの滴が落ちる。
名前とは恋人関係にあるが、彼女は雷撃隊、つまりレヴィの部下だ。
アジト内に入り浸っている限りは触れ合うことなど叶わないため、時間に余裕があれば二人で過ごすようにしている。
人より言葉数が少なく、同性の隊員は片手で数えるほど希少だ。
それも様々な部隊に分散しているため、滅多に話す機会はない。
甘える相手が居ない中、寂しい思いをさせたくない気持ちが募る。
「レヴィ様」
耳元で名前がぽつりと名を呼ぶ。
レヴィは返事の代わりに強く抱きしめる。
「・・・好き、です。」
名前は恥ずかしさ余ってか、か細い腕に力を込めた。顔は見えないが、真っ赤に染まった耳を見て微笑み、唇を這わせる。
びくりと大袈裟に体が跳ねる。
「愛している」
耳元で小さく囁く。
腕の中の暖かさがずっとこのままで在って欲しい。
共に人生を歩んでくれるかと聞いたら、君は何て答えてくれるだろう。
任務が終わったら真っ先に君に指輪をプレゼントしよう。
自重しないあとがき
やっちゃいましたレヴィ夢。なぜかあまりレヴィ夢の取り扱いある所が少ないので、やっちゃおうぜ的なノリで。
レヴィにおひさまをガンガン当ててあげたいです・・・。